| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-Q-472  (Poster presentation)

マングローブ植物(メヒルギ)の呼吸温度依存性

*井上智美, 冨松元, 川西あゆみ(国立環境研究所)

マングローブ植物は熱帯・亜熱帯の暖かい地域の干潟にのみ生育する。北限・南限を超えると木本植物で構成されるマングローブ林は見られなくなり、干潟の植生が主に草本植物群落となるのはどういう訳なのだろうか?

植物は水や養分の吸収に必要なエネルギーを呼吸によって得ている。一般に、呼吸速度は計測温度の低下と共に低下することが知られているが、その温度依存性の度合いは植物種によって様々である。マングローブ植物の分布が暖かい地域に限定しているのは、塩分ストレスのある干潟環境で木本植物の生育を維持する為に十分な呼吸エネルギーを得るにはある程度の気温が必要だからなのではないかと考えた。

本課題では、マングローブ植物の中で最も北限が高緯度にあるメヒルギの呼吸温度依存性を明らかにするため、4段階の生育温度下(15、20、25、30℃)で栽培を行い、それぞれの栽培個体について、葉と根の呼吸速度温度依存性(測定温度15、20、25、30℃)を計測した。各生育温度下での呼吸速度は、生育温度と共に低下していた(30~15℃で葉は0.7倍、根は0.4倍)。ただし、呼吸速度のアレニウスプロットは、葉と根の双方において低温で順化させたものの方が高く、メヒルギには温度に対する呼吸の恒常性があることが明らかとなった。温度に対する恒常性を達成するための応答様式は葉と根で異なっており、葉では生育温度の上昇と共に呼吸反応のみかけの活性化エネルギーE0が上昇するのに対し、根では逆に低下していた。各生育温度下での相対成長速度は、栽培温度が高くなるにつれて減少していた。メヒルギは概ね10℃以下で栽培をすると枯死するが、本課題の結果から、低温における枯死の要因は気温低下とともに徐々に起こるものではないことが窺える。今後は塩分ストレス下における呼吸速度の温度依存性を計測すると共に、分布北限が低緯度にある他の種についても検討を進める。


日本生態学会