| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-R-474 (Poster presentation)
テンナンショウ属はサトイモ科に属する多年生植物で、雌花と雄花が異なる個体に着生する雌雄異株であるが、同一個体であっても年によって性表現が変化する。テンナンショウ属の性転換には個体サイズが関係していると言われており、サイズが大きいと雌に、小さいと雄になる傾向がある。しかし、両者の間に見られる傾向は相関関係を検出するにとどまっており、個体内資源量などが関連しているのではないかという示唆もあるが、そのメカニズムに言及するものではなく、性の決定機構は未だ明らかにされていない。そこで本研究では、テンナンショウ属の性表現型に差異をもたらす遺伝子群を明らかにするため、カントウマムシグサ(Arisaema serratum)のオスおよびメスの小花における網羅的遺伝子発現解析を行った。
2015年5月に岡山市龍ノ口山国有林(34.71 N, 133.98 E)に自生するカントウマムシグサのオスおよびメス花序をそれぞれ3個体ずつから採取し、次世代シーケンサーによる解析に用いた。シロイヌナズナの花の各器官のマイクロアレイの結果と照らし合わせた結果、カントウマムシグサの雄花ではシロイヌナズナのオス器官(雄蕊、花粉)において特異的に高く発現する遺伝子群が、雌花ではメス器官(雌蕊)において特異的に高く発現する遺伝子群が統計的に有意に多く含まれており、本解析の結果の妥当性が示唆された。また、カントウマムシグサの雄花において発現が高くなる遺伝子群には、窒素・スクロースの制限下において発現が高くなる遺伝子群が、一方で雄花において発現が低くなるような遺伝子群には、窒素・スクロースの制限下において発現が低くなる遺伝子群が統計的に有意に多く含まれていることがわかった。この発現解析の結果は、雄花において窒素およびスクロースの量が欠乏状態にある可能性を示唆しており、窒素やスクロースなどの資源量が雄花および雌花の形成に関与している可能性が考えられた。