| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-R-477 (Poster presentation)
雌雄異株植物の個体群では、しばしば性比の偏りや雌雄の分布の空間的な分離が観察される。これらの個体の性が関わる構造が形成されるプロセスとして、大きく2通りが考えられる。1つ目は、1本の母株が生産する種子集団の性比は1:1であり、開花個体集団の性比の偏りは、一方の性の早熟性や生存率の高さから生じるというものである。また、出生時の性比が1:1であるならば、雌雄株の分布の分離は、特定の環境条件において一方の性の個体の生存率が高いために、成長の過程で徐々に形成されることになる。考えられる2つ目のプロセスは、性比は出生時から既に偏っており、その偏りが開花個体集団において顕在化するというものである。多くの研究では前者、すなわち出生時の性比には偏りがないことを前提として説明が試みられてきたが、推測の域を出ない。このような未解決の問いが残されている理由は、未開花個体の雌雄判別の難しさにある。
奈良県御蓋山では、優占種であるナギの生活史特性の性差や性比、雌雄の空間分布の偏りが観察されている。それらの成因にせまるため、雌雄判別のためのDNAマーカーを開発し、未開花個体の性判別を試みた。調査区の4箇所において、1箇所につき32~45本、合計148本の実生からDNAを抽出し、性判別を行った。雄の割合は場所によってやや異なるもの、0.465~0.600となり、性比の偏りや場所による差は見られなかった。したがって、雌雄異株植物の研究で前提とされてきた「出生時の性比は場所によらず1:1」という条件がナギでは支持された。