| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-15 (Poster presentation)
青森県八戸市の種差海岸には全国的にも珍しい海岸のサクラソウ自生地がある。平成25年5月に三陸復興国立公園に指定されたのをきっかけに、自生地の将来の存続を不安視する声が高まっている。そこで私たちは自生地の自然環境から将来の群落の行方と今後の自然保護の在り方を探る目的で研究を行った。その結果、他の植物との競合により生育後半は草に埋もれてしまうこと、そのため葉緑素が減少することがわかった。また海岸から吹く低温多湿の風の影響もあり、訪花昆虫がほとんどいないこともわかった。そのため結実率も10%以下と極めて少ないことが判明した。また花弁の変異も少なく、長花柱花と短花柱花も同じ場所にまとまって自生していた。これらを総合的に考えると種差海岸は小さなクローン集団が点在している極めて危険な状態にあると考えられる。地域住民に行った聞き取り調査では、周辺の開発に伴い草原から森林へと環境が大きく変化し、そのため訪花昆虫が減少し、種子繁殖しにくい自生地になったことを裏付ける声を多く聞くことができた。そこで専門家と相談し、自生地内に点在する異なる群落同士で人工授粉を行い遺伝的多様性を維持する活動に取り組んだ。その結果、結実率も向上した。この方法は他から植物を持ち込むことのできない国立公園にとって効果的なアイデアではないかと思われる。現在はモニタリング中である。未来にサクラソウ自生地を残すためには今後、訪花昆虫の生息地の確保や人工授粉による種子繁殖の促進などより積極的な保護活動が必要だと思われる。