| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-32 (Poster presentation)
ヒダサンショウウオの産卵行動に関する文献は少ない。それは,産卵の様子を誰も見たことがないからである。ヒダサンショウウオは渓流に棲み,寒い1〜3月に大きな石の裏に卵嚢が流されないように産卵する。それも砂利とのわずかな隙間に産むので,今まで見た人はいなかったのである。1月28日,産卵するオスとメスの行動を2台のビデオカメラで撮影することに成功した。オスの産卵を促す行動やメスが仰向けになり卵嚢を接着する様子,オスがメスの卵嚢を引き出す様子等が鮮明に撮らえられている。また,2月2日にはスニーカー行動の撮影にも成功した。これは,この3年間ヒダサンショウウオの生態を調べた成果でもある。さらに,水質や水温,卵嚢を産み付けるブロックの斜面角度等を含めて,ヒダサンショウウオが安心して産卵できる環境を作り出した「産卵ケース」の開発がある。今期捕獲した,3ペアの全てがこの産卵ケースで産卵した。このように,希少種が産卵する装置を完成することは,種の保存の研究や繁殖に繋がる研究として価値が高いと考える。
校区(大桑)に棲むヒダサンショウウオの幼生は産まれた年に全て変態するが,10km離れた寺尾には,越冬する幼生がいることが確認された。そこで,越冬幼生は成長速度が遅いと考え,「水質,水温,遺伝」について実験を行なった。大桑と寺尾で採取した卵を8グループに別け,条件を変えながら卵から幼生,変態するまで育てた。その結果,卵や幼生の成長速度は「水温」に関係し,「水質や遺伝」には関係していないことがわかった。寺尾の越冬幼生については,今でも現地調査を続けており,冬場はほとんど成長しないことも確認できた。これは,餌の量が関係していると考えられる。この幼生達が初夏に変態するまで研究を続けたい。また,来年度は「越冬幼生の出現は餌が乏しいため」と仮説を立て,理科室と現地(大桑,寺尾)で研究を進めたい。