| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-42 (Poster presentation)
東日本大震災の津波によって、仙台市のクロマツ海岸林が大きな被害を受けた。現在、仙台市沿岸部では大規模なクロマツ植林事業が進められている。クロマツは、菌根菌と共生して菌根を形成し、貧栄養な土地でも自生できることが知られている。また、日本の海岸クロマツ林に共生する菌根菌はCenococcum geophilumが優占種であることが示唆されているが、仙台市沿岸部の菌根菌の群集構造については未報告である。そこで本研究では、仙台市沿岸部のクロマツの植林活動への利用を目指し,クロマツ実生の環境適応と菌根菌の関係を調べることにした。今回は,クロマツ実生の根に共生する菌根菌を明らかにすることを目的とし,た。まず、樹齢1~3年のクロマツを仙台市宮城野区の砂地より8個体、若林区の植林用盛土より4個体採集し、観察を行った。菌根を実体顕微鏡で観察し、色、形、単生か群生か、菌糸の色と菌根への絡まり方に着目して形態的特徴による分類を行った。その結果、砂地のクロマツからは5種類、盛土のクロマツからは3種類の菌根が観察された。また、砂地のクロマツからはC.geophilumの菌根、盛土のクロマツからは形態からタイプHと名付けた菌根が最も多くの個体にみられ、これらが優占種であると示唆された。さらに、クロマツの菌根の一部について遺伝子バーコーディングを行ったところ、盛土のクロマツにみられた菌根のうちの1つは、Suillus bovinus(アミタケ)によるものであることが分かった。また、新たに樹齢1~3年のクロマツを仙台市宮城野区の砂地より3個体、若林区より7個体採集し、遺伝子バーコーディングを行ったところ、砂地のクロマツにみられた異なる3つの菌根は、それぞれTomentella badia、Rhizopogon roseolus(ショウロ)、Lactarius hatsudake(ハツタケ)によるものであることがわかった。砂地と植林用の盛土では,クロマツ実生に形成される菌根菌群が異なることが分かった。今後はクロマツ実生の生存と菌根形成の関係を明らかにしていきたい。