| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
シンポジウム S10-7 (Lecture in Symposium)
生物のなかには激変する環境に強靭に応答する種がある。こうした種は長期的な応答を可能にする遺伝的変異をどのように獲得しているのだろうか。キイチゴ属Idaeobatus亜属に属する亜熱帯性リュウキュウイチゴと温帯性モミジイチゴはそれぞれ分布の南限と北限を屋久島に持ち、2種の中間的標高帯(200~900m)では交雑帯を形成している。本研究では、2種で分化している変異の交雑帯における遺伝子浸透を解析し、他種に浸透していく遺伝子変異を追った。屋久島において、ピュア集団と推定された両親種集団を含む計9集団75個体からddRAD法を用いてゲノムワイドな変異を計11,920遺伝子座(38,750SNPs)検出した。各個体の交雑度に沿ったGenomic Cline解析を行ったところ、中立的ではない勾配を持つと判定された遺伝子座が281個検出された。これらのうち、親2種で変異が固定されている87遺伝子座を、中立的な勾配から逸脱して交雑帯をより速く移動している候補遺伝子座とした。候補遺伝子座の上流・下流5kb以内にコードされた遺伝子領域を探索したところ、カロテノイド生合成に関わるZ-ISOホモログ遺伝子などが低地の亜熱帯リュウキュウイチゴから高地(温帯性モミジイチゴ側)に浸透していると推定された。一方、開花期や低温応答に関わるとされるFVEホモログ遺伝子などが高地(温帯性モミジイチゴ)から低地へと浸透しつつあった。両種がそれぞれの環境で進化させた固有の遺伝子変異を獲得することで、多様な環境を持つ標高沿いで雑種集団が維持されていることが示唆された。また、先行研究から、この2種間には過去にも遺伝子流動があったことが示唆されている。こうした種は、変わりゆく環境に適応するための遺伝的変異を、気候変動という環境変化によって構築される交雑帯を通して、近縁種から「拝借」しているのかもしれない。