| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


シンポジウム S12-5  (Lecture in Symposium)

イオン・化合物レベルの土壌物質動態解析:植物・土壌・ヒトの相互作用を予測する

*藤井一至(森林総合研究所)

生態系において土壌は変化しにくい存在だが、植物やヒトと関わりながらゆっくり変化し続けている。土壌中の物質動態をイオンや化合物レベルで追跡することによって、生態系に起こる僅かな変化を検出できる。温暖化や土地利用変化の土壌への影響評価の事例を紹介する。
北極圏の温暖化は海氷減少を進行させているが、陸域生態系への影響も拡大すると予測されている。カナダ連続永久凍土帯に広がる黒トウヒ林(通称、酔っ払いの森)では、凍土層によって地表面にデコボコが生じ、黒トウヒの年輪にあて材(歪み)として記録される。年輪解析の結果、過去50年間の温暖化が凍土の融解・再凍結に伴うハンモック構造の発達を促し、あて材の形成を促進していることが分かった。凍土では浅い凍土面、湛水によって微生物の分解活性が低いために、アミノ酸、尿素が高濃度で存在する。さらに、13C・15Nトレーサー試験の結果、黒トウヒは尿素を選択的に吸収していることが明らかとなった。活動層が深い地点の黒トウヒは、無機態N(NH4+、NO3-)をめぐって白トウヒ、カンバ、草本と競合し、表層では地衣類、蘚苔類がアミノ酸・無機態Nをめぐって競合する。浅い凍土層に適応した養分獲得の仕組みが存在する。温暖化によって活動層が深くなれば、黒トウヒ林の分布域が制限される可能性がある。
熱帯林の耕地化は土壌酸性化を加速しており、さらなる農地拡大を防ぐためには酸性化の緩和策が必要である。焼畑の常畑化や油やし農園が拡大するインドネシアでプロトンの発生・消費量を観測した結果、農地土壌では硝酸化成によって酸が発生する一方で、土壌有機物はその中和剤として働くことが分かった。火災後30年間にわたる土壌有機炭素量の変動を観測したところ、短期的にはチガヤ草地、長期的には二次林(香木など)で有機物が蓄積し、酸性化を緩和できる。経済性にも配慮して休閑植生・期間を選択すれば、農地土壌の肥沃度管理も可能となる。


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