| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


企画集会 T04-2  (Lecture in Workshop)

北アルプス北部の高山植生の組成と分布

*石田祐子(長野県環境保全研究所)

北アルプス後立山連峰は、日本三大お花畑の1つに数えられ、固有種や高山性の絶滅危惧植物も多い。しかし、この地域の植生研究は一つの山を対象とした断片的なものが多く、山体を対象とした植生誌的研究は行われてこなかった。また、この地域にもシカの採食圧の高まりの懸念が出てきており、高山植生の立地環境を明らかにすることは喫緊の課題である。そこで、本研究では、北アルプスの中でも特に多様な高山植生が成立する後立山連峰北部の地域植生誌的研究を行い、高山植生の種組成と立地環境について明らかにすることを目的とした。
 後立山連峰北部での高山植生の種組成を明らかにするために、ハイマツ匍匐木林より高標高域に分布する植生を対象とし、植物社会学的手法による植生調査を行った。調査地点はGPSを用いて緯度経度座標を記録した。植生調査の際、環境条件として、群落の成立する微地形(数十cmから数mレベルの)斜面方位、斜面傾斜を記録した。また、可能な限り現地で地質の記録を行った。調査は2006年から2012年の7月から10月にかけて行った。得られた植生調査資料を基に表操作を行い、植生単位を抽出し、標高・斜面方位・斜面傾斜・地質と植生単位の分布との対応を検討した。
 表操作の結果、6クラス(アオチャセンシダクラス、コマクサ-イワツメクサクラス、カラフトイワスゲ-ヒゲハリスゲクラス、ミネズオウ-クロマメノキクラス、アオノツガザクラ-ジムカデクラス、ダケカンバ-ミヤマキンポウゲクラス)に含まれる25群集・群落が抽出された。25群集・群落の多様な高山植生は、標高、斜面方位、そして基質の違いに対応しており、複雑な基質は高山植生を群集、下位単位のレベルでも植生の多様性を生み出していることが示唆された。白馬岳周辺の高山植生は、世界でも有数の多雪地域に成立していること、地質年代、岩質ともに多様であることに起因した、多様性の高い植生であると判定された。


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