| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
企画集会 T04-3 (Lecture in Workshop)
中村のロシアとの比較による高山植生体系および石田の高山植生の発達した中心部分の研究に対し、演者は、高山性植生の分布末端部である下限および西限地域の植生状況について紹介し、話題提供としたい。
日本における高山帯植生は、ハイマツ低木林帯を森林限界の亜高山性植生とすると、本企画集会の開催趣旨にもあるように、その上部の地域に成立している草原や矮性低木群落からなる植生域である。中部山岳では海抜3,000m以上の高山の山頂周辺の低温、風衝等の厳しい立地環境に限定されている。しかし多くの場合、高山植生は「植生帯」として明瞭な帯状分布を示すことはまれで、多くは風衝地、岩礫地、砂礫地、特殊岩地などの地形的特徴に対応して生育している、土地的植生として成立しているのが一般的である。また、高山性植生の構成種は、3,000mを越えるような本格的な高山域のみに見られるだけでなく、その山岳の地理的、地質的、地形的条件等によっては、海抜2,000m以下の地域でも決してまとまった広い植分を形成してはいないが、類似した種組成や相観を持った、高山性植生といえる形態を持つ植生を形成することがある。
このような事例は、北関東に位置する上越国境付近の山岳地域でしばしば観察される。本講演では超塩基性岩の蛇紋岩(橄欖岩)が分布する群馬県尾瀬地区の至仏山(2,228.1m)と谷川岳(1,963.2m)周辺地域、および関東地方の最高峰で、明治期の1890年に噴火の記録がある地質年代的に新しい火山である日光白根山(2,577.6m)を例として紹介する。また、高山植生がまとまって分布する高山としては最も西に位置する白山(2,702.2m)の高山性植生を現地調査データから紹介し、中部山岳で最も高山性植生が発達している中心的山岳である白馬岳(2933m)や北岳(3192.4m)の植生と比較して、分布西限域の高山性植生の特徴を考察する。