| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) B01-03  (Oral presentation)

日本におけるザリガニの疫病 水カビ病の感染状況調査

*上村兼輔(東京大学), 川井唯史(北海道稚内水産試験場)

 水カビ病は、Aphanomyces astaciによって引き起こされるザリガニの疫病である。水カビ病菌A. astaciは国際自然保護連合の定める「世界の侵略的外来種ワースト100」に指定されており、ヨーロッパを中心に世界各地で問題となっている。外来種である北米産のザリガニは水カビ病菌の自然宿主であるため抵抗性が高く、水カビ病菌のベクターとなる。それに対し在来種のザリガニは水カビ病に対する有効な免疫防御を示すことができないため、感染すると死に至る。2016年の報告では、国内で初めて水カビ病の侵入が明らかになり、絶滅危惧種であるニホンザリガニの保全の観点から、国内における水カビ病の感染状況および病原菌の性質に関する知見を集めることは喫緊の課題であるといえる。そこで本研究では、全国(北海道2、東北4、関東3、中部1、関西1、中国1、四国1、九州1)の生息域から収集したアメリカザリガニとウチダザリガニを対象に、水カビ病菌のDNAを特異的に増幅させるPCR法を用いて国内における水カビ病の感染状況を明らかにした。その結果、すべての調査地で水カビ病の感染が確認され、調査地ごとの感染率は40%から90%であった。種ごとの感染率はアメリカザリガニで68%、ウチダザリガニで53%であった。ニホンザリガニの生息域である北海道、東北地方でも水カビ病菌の定着が確認されたことから、ニホンザリガニへの感染のリスクが高いと考えられる。次に、関東地方に生息するアメリカザリガニを対象に季節ごとにサンプリングを行い、感染率と水温の関連を明らかにするために、ロジスティック回帰で分析を行った。その結果、水カビ病の感染率と水温にわずかな負の相関が認められ、水温が上昇するにつれて水カビ病の感染率が低下することが明らかになった。感染率が低下する原因は宿主であるザリガニの季節的な行動パターンと関連している可能性があり、より詳細な調査を行い明らかにする必要があるだろう。


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