| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-008 (Poster presentation)
食草転換は植食性昆虫における重要な種多様化メカニズムと考えられており、食草転換が生じる際には、ある植物の防御形質に対する抵抗形質の獲得が必須である。アゲハチョウ属(Papilio)においては、主にミカン科(Rutaseae)とセリ科(Apiaceae)植物がもつ二次代謝産物であるフラノクマリンに対する解毒能力の獲得が、種多様化の鍵となったと考えられている。北米に生息するセリ科食のアゲハチョウP. polyxenesを使った研究により、CYP6Bサブファミリーに属する遺伝子群がフラノクマリン解毒に関与することが示されている。フラノクマリンとCYP6Bの対応関係をアゲハチョウ属種間で比較することで、その食草転換および種多様化のメカニズムが明らかになることが期待される。本研究では、ナミアゲハ(P. xuthus)をもちいてフラノクマリン組成が異なる2種類の植物を与えたときのCYP6Bの発現量比較をおこなった。さらに、食草に対応したCYP6Bの多様化を検証するために、アゲハチョウ9種についてRNA-seqによる網羅的遺伝子探索をおこなった。発現量比較の結果、3つのCYP6B遺伝子について、発現量がフラノクマリンに誘導されて増加しており、日本に生息するアゲハチョウにおいてもCYP6Bがフラノクマリン解毒に関与することが示唆された。さらにCYP6Bの網羅的探索の結果、利用する食草のフラノクマリン多様度が高い種ほど保有するCYP6Bの数が多く、食草に対応したCYP6Bの多様化が起きていることが示唆された。しかし、アゲハチョウ種間で比較したとき、食草の類似性もしくは系統距離に対応したCYP6Bの保有プロファイルは確認されなかった。加えて系統的に遠い種で共通するCYP6Bが多いことから、確認されたCYP6B遺伝子はアゲハチョウ9種が分岐する以前にすでに獲得されており、食草転換を繰り返すなかで各種においてその機能が独立して変化したことが示唆された。