| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-013 (Poster presentation)
歯の歯根部のセメント質に形成される年輪は、多くの哺乳類の年齢の把握に用いられる。セメント質年輪の幅は個体の栄養状態を反映し、ツキノワグマでも、年輪幅にメスの育児にともなう栄養状態の変化が反映されることが明らかになっている。しかし、ツキノワグマは、冬眠に向けた飽食期である秋季にブナ科堅果を集中的に採食するため、秋季の食物資源量の変動であるブナ科堅果の結実豊凶は、育児と同様に、栄養状態に強い影響を与えると考えられる。そこで、ツキノワグマの栄養状態の変化を通じて年輪幅の変化がもたらされる要因を明らかにすることを目的に、ブナ科堅果の結実豊凶によって(1)年輪幅は変化するのか、また、環境変化によって一時的に成長が停止することで形成される偽年輪にも着目し、(2)偽年輪の出現の頻度は変化するのかを検証した。栃木県の有害捕獲されたオスのツキノワグマ計64個体を対象とし、代謝の違い等の理由から、亜成獣と成獣のグループに分けた。そして、2007年-2012年において、栃木県で行われた豊凶調査で得られた優占するブナ科樹種であるミズナラの地域全体の結実豊凶エネルギー量によって、年輪幅と偽年輪の出現頻度がどのように変化するかを、線形混合モデルと一般化線形モデルを用いて検証した。その結果、成獣オスでも亜成獣オスでも、年輪幅はミズナラの結実豊凶によって変化しないことが示された。理由として、ツキノワグマは雑食性のため、堅果が凶作な年には他の食物資源を食べて栄養状態の低下を補うことができたからであると考えられる。一方、亜成獣オスでは偽年輪の出現は結実豊凶によって変化することがわかった。理由として、亜成獣の方が成獣よりも骨や歯などの体の成長にエネルギーを投資するため、影響を受けやすかったのではないかと考えられる。また、本結果によって、年輪幅は育児の成功の有効な指標となりうることが示唆されたといえる。