| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-021  (Poster presentation)

種子段階での防衛誘導が稚樹のパフォーマンスを長期的に変える

*芳賀真帆(北大・環境科学院), 高林純示(京大・生態研), 宮崎祐子(岡山大院・環境生命), 内海俊介(北大・FSC)

 陸上植物は、天敵から損傷に対抗し、誘導防衛を行う。誘導防衛の発現には、サリチル酸(以下SA)やジャスモン酸(以下JA)のような植物ホルモンである防衛シグナル物質の働きが重要とされる。近年、親個体が示した誘導防衛が、種子を介して次世代の防衛を高めるという世代間の誘導防衛の伝達という現象が報告されつつあり、種子段階に人為的な防衛シグナル処理を行うことで、このような防衛の世代間伝達に似た効果が現れるかもしれない。しかし、この仮説を検証した研究は少ない。本研究では、樹木における種子段階での防衛シグナル処理がその後の稚樹の成長、食害、および節足動物の定着に対して与える影響を調べた。
 材料としてミズナラを用いた。ミズナラの堅果に防衛シグナル処理を施したのち森林内に播種する野外実験を行った。2014年10月に北海道大学天塩研究林の成木2本の堅果1120個を実験に供した。サリチル酸メチル 1 mM、3 mM、5 mMの3段階濃度(SA処理)、ジャスモン酸メチルを同じく3段階濃度(JA処理)の溶液に堅果を36時間浸した。コントロールは0.25 %エタノール溶液に同時間浸した。堅果は処理後すぐに北海道大学雨龍研究林の掻き起こし地に播種した。2015年と2017年に、稚樹の高さ、葉数、食害について調査した。2015年は出現した節足動物群集についても調査を行った。
 2015年の稚樹の高さは、SA処理で、8・9月に濃度が高いほど低くなった。2017年にはSA・JA処理による影響が明瞭にあらわれ、いずれも濃度が高くなるほど成長が悪くなった。2015年の食害率は、SA処理では、大きな影響は見られなかったが、JA処理では7月と9月に有意な差が見られた。2017年の食害率は、SA・JA処理で濃度によって異なる反応を示した。さらに、クモ類の個体数はJA処理で、5 mMで有意に増加した。以上より、種子段階での防衛シグナル処理はミズナラの長期的な成長および定着する節足動物群集に影響を及ぼすことが示唆された。


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