| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-023  (Poster presentation)

夏緑広葉樹林における樹木の被食防御機構の樹種間比較

*塩崎暢彦(東京農大・院・林学), 武生雅明(東京農大・院・林学), 瀧本りりこ(東京農大・地域)

周期的・突発的に大発生する昆虫の食害はどのような樹種や場所で大きくなるのだろうか?また、定常時の食害に対する防御機構は周期的・突発的な食害には有効だろうか?本研究で対象とした長野県小谷村をはじめ東日本全域で2014年にマイマイガの幼虫が大発生したことから、このマイマイガによる突発的な食害度を樹種や標高間で比較し、マイマイガの採餌特性と樹木の防御機構について明かにすることを目的とした。
 樹種と標高間のマイマイガの食害の様子について、2014年の大発生時に小谷村の栂池高原(850,1000,1200,1400m)と雨飾山(650,950,1200,1400m)の8箇所に調査区を設置し、胸高直径5cm以上の全樹木について食害度の測定を行った。マイマイガの餌選択特性を知るため、2016年に7種(ブナ,ミズナラ,アズキナシ,ウワミズザクラ,アカイアタヤ,ウリハダカエデ,ヤマモミジ)の葉の縮合タンニン量、最大光合成速度(Amax)、1シュート当たりの葉重量、LMA、CN、窒素濃度を測定しそれらを説明変数にマイマイガの食害度を目的変数としたGLMを行った。大発生の翌年の2015年と2016年にブナとミズナラの同一個体で防御物質量の経年調査を行った。
 栂池高原、雨飾山ともに標高1200m以下でマイマイガの食害を確認し、ミズナラとシラカンバが激しい食害、ブナとカエデ類で中程度の食害、アズキナシ、コシアブラとミズキはほぼ食害されていなかった。マイマイガは葉の窒素濃度が高くAmaxが大きい樹種に高い嗜好性を示したが(Pr<0.05)、縮合タンニン量と嗜好性に関連性は見られなかった(Pr>0.05)。ブナとミズナラは大発生の翌年の2015年の方が2016年よりも葉中の縮合タンニン濃度が高いことから誘導防御反応を示していると認められた。マイマイガの幼虫は葉の窒素濃度が高い栄養の豊富な樹種に嗜好性がみられ、縮合タンニンは食害を抑制させなかった。ブナとミズナラは主にフェノール類を防御機構としていたが葉の窒素濃度が高かったため激しい食害を受けたと考えられる。


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