| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-024  (Poster presentation)

滑る花弁:蜜腺露出型の花に見られる新しい盗蜜者排除機構

*武田和也, 川北篤(京都大学)

動物媒の植物は非常に多様化した花をもつが、こうした形質の多くは有効な送粉者を誘引し、それらに効率よく送粉を行わせるための適応として解釈されてきた。一方で、訪花者の中には送粉に寄与せず、植物の繁殖に負の影響を与えるものも存在する。こうした訪花者の存在もまた花形態に選択圧をもたらすと考えられるが、こうした存在の影響を抑えるような適応については未だ知見が少ない。
アリはこうした望ましくない訪花者の1つである。アリは花蜜を好んで採餌する一方、送粉には寄与することが少ない。加えてしばしば効率的なハナバチなどの送粉者を攻撃し、排除することから植物の送粉成功に負の影響をもたらすことが知られている。
演者らはツルニンジン、バアソブ(キキョウ科)とコシノコバイモ(ユリ科)の系統的に離れた2科3種の植物で、アリが花弁上を滑って歩けないことを確認した。これらの花は共通して蜜腺が露出しており、アリによる盗蜜のリスクは高いと考えられた。したがってこの滑る花弁は盗蜜アリの花への侵入を阻害する盗蜜者排除機構であると仮説をたて、行動実験と野外での操作実験、電子顕微鏡による表面構造の観察によって検証を行った。
行動実験と電子顕微鏡による撮影によって、これらの花弁表面の微細なワックス結晶がアリの歩行を阻害する機構として機能していることが示された。加えて野外実験の結果からこの滑る花弁が実際にアリによる盗蜜を減少させていること、花内に侵入したアリは送粉者の逃避をもたらし、訪花時間を減少させることが示された。
花弁表面を滑らせることで訪花者を選別する機構はこれまでに報告がなく、これまで見落とされてきた新しい盗蜜者排除機構であると考えられる。


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