| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-064  (Poster presentation)

窮すれば長ず:巻貝を介したホンヤドカリに対する海洋酸性化の間接効果

*戸祭森彦, 今孝悦(筑波大学下田臨海)

海洋酸性化は,大気中のCO2が海水中に溶け込み,海洋のpHが長期的に低下する現象である.これまで多様な海洋生物への影響評価がなされ,個々の種に対する直接効果の知見が豊富に蓄積されてきた.一方,海洋酸性化の影響を直接受けにくい種でも,餌生物・捕食者・競合種などを介した間接効果を受け得るが,その検証例は僅少である.ヤドカリ類の多くは巻貝の貝殻を宿貝とし,体サイズに応じてこれを変えるため,ヤドカリ体サイズは宿貝サイズによって潜在的に影響を受け得る.海洋酸性化は,石灰化阻害を介して巻貝を小型化させることが示唆されており,それに応じてヤドカリ体サイズも抑制されることが予測できる.本研究では本邦の岩礁潮間帯に広く分布するホンヤドカリPagurus filholi (de Man, 1887)を用い,貝殻を介したヤドカリ体サイズに対する海洋酸性化の間接効果を検証した.
伊豆諸島式根島の釜ノ下海岸(海底からCO2が噴出し,野外で海洋酸性化の影響が調査できる場所:酸性化海域)と石白川海岸(通常海域)において,2016年7月(繁殖期)および2016年9月(非繁殖期)にホンヤドカリと空の貝殻を採集し,それらのサイズ(ヤドカリ盾長,ヤドカリ宿貝口径および貝殻口径)を測定した.結果,ホンヤドカリは繁殖期によらず酸性化海域で有意に小さいが,宿貝は繁殖期において酸性化海域の方が有意に小さいことが判明した.次いで,ヤドカリ体サイズの小型化が宿貝サイズを介した効果か検証するため,様々なサイズの貝殻を与えた稚ヤドカリ個体群と貝殻を与えない個体群を酸性化海水(pH ≒ 7.8)あるいは通常海水(pH ≒ 8.1)条件下で飼育し,その成長率を比較した.結果,貝殻の有無によらず酸性化海水下で稚ヤドカリの成長率は有意に低下した.従って,酸性化海域におけるヤドカリ体サイズの小型化は,海洋酸性化の直接効果によって生じる成長制限に起因し,宿貝を介した海洋酸性化の間接効果は見かけ上のものであることが示唆された.


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