| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-066  (Poster presentation)

ニホンヤマビルの遺伝的多様性と地理的変異

*森嶋佳織(東京農工大学大学院), 逢沢峰昭(宇都宮大学)

近年、全国的にニホンヤマビル(Haemadipsa japonica;以下、ヤマビル)の吸血被害が増加しており、大型哺乳類を介した分布拡大が示唆されている。本研究では、ヤマビルの分布拡大がどのような過程を経て生じたのか明らかにするため、ヤマビルの遺伝的集団構造を明らかにすること、および栃木県を例として、分布拡大がどの集団を核にどのような動物を介して生じたのか明らかにすることを目的とした。全国42集団528個体のヤマビルを採集し、ミトコンドリアDNA(mtDNA)のCOI領域の塩基配列を決定した。その結果、83のハプロタイプが検出され、秋田県から兵庫県淡路島や徳島県にかけて広く分布する系統群と、より分布域の限定された系統群、の2つに大別された。後者はさらに北東グループ(兵庫県丹波市、静岡県、長野県)と南西グループ(広島県、大分県、宮崎県、鹿児島県)に分かれた。これは、日本列島におけるヤマビルの地史的な分布変遷によって形成されたと考えられた。栃木県では、拡大集団(5集団)のmtDNAの遺伝的多様性は土着集団(1集団)より低かった。これは拡大集団が土着集団から分布拡大する際に創始者効果が生じたためと考えられた。また、栃木県において土着集団と拡大集団から採集したヤマビル150個体について核DNAのマイクロサテライトマーカー12遺伝子座を用いて遺伝構造を調べた結果、栃木県のヤマビルは南北で2つの地域群に分かれた。さらに、宿主動物を同定するためにヤマビルの消化管に残る血液塊から全DNAを抽出し、mtDNAの16S rRNA領域の塩基配列を決定してデータベースと照合した結果、宿主動物の大部分はニホンジカと同定された。これらから、栃木県ではヤマビルの分布拡大は主としてニホンジカを介して起きているが、ヤマビルの遺伝的交流を伴う移動は南北の各地域群内で限定的に生じているのみと考えられた。


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