| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-070 (Poster presentation)
世界有数の多様性を誇るマラウイ湖岩礁沿岸帯の付着藻類食シクリッド魚類は、「種ごとに特徴的な形態や摂餌戦略を持つことでニッチを分割して共存してきた」と説明される。しかし、野外では餌や摂食位置などをいくら詳細に比べてもニッチ重複は著しく、多種共存の仕組みには不明な点も多い。そこで、摂食ニッチの距離と種内・種間の縄張りの分布様式との関係を調べ、ニッチが重複する種同士は摂食縄張りによって同種個体と同様に共存している可能性を検証した。
湖内一多様性の高い島の調査区で、優占6属9種の縄張り範囲を個体ごとに記録し、各種内の繁殖縄張りと種間の摂食縄張りの重心の分布を、点過程解析によって一様分布か否か判定した。一方、炭素・窒素安定同位体比の2種間の距離を摂食ニッチ距離の指標とした。2種間の摂食ニッチ距離が種間縄張りの分布様式に及ぼす影響をロジスティック回帰で検証した。ニッチの重複する種同士が縄張り制によって同種同様に共存しているなら、縄張りは一様分布的になると予想される。
種内の繁殖縄張りの重心は、種間の摂食縄張りの重心とほぼ一致し、強い縄張り制を持つ動物に期待される一様分布は9種中8種で確認されなかった。他種からの干渉による位置取りの制約が示唆された。一方で、種間の摂食縄張りは、摂食ニッチが近い種の組み合わせほど、一様分布を示す傾向が見られた。つまり、摂食ニッチが似る2種は、縄張り間に一定の距離を維持して共存していることが示された。
種内の縄張り争いによる一様分布を制限するほどの種間争いは、多様性を維持するための重要な要因かもしれない。マラウイ湖のシクリッド魚類群集は、各種が確立してからの時間が短い、適応放散の典型例である。生活要求の近い種同士が同種個体のような振る舞いで共存していたことは、この群集の多様性の一部が中立説的に維持されている可能性を示唆する。