| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-078  (Poster presentation)

アフリカのオナガザル3種はおなじ昆虫を食べているか ー糞DNAから探る採食戦略ー

*峠明杜, 早川卓志, 岡本宗裕, 橋本千絵, 湯本貴和(京大・霊長類研究所)

 霊長類の主要食物は果実・葉・昆虫などだが、中でも昆虫は特に栄養価が高い資源である。同所的な別種のサル同士において昆虫食の際の樹高や捕獲方法が異なるといった行動レベルでのニッチ分化が観察されてきた。しかし、一瞬で口に運ばれる被食昆虫を直接観察によって種同定するのは困難であるため、同所的霊長類が昆虫種を食べ分けているかについては理解が進んでいない。よって本研究では、ウガンダのカリンズ森林保護区に棲息する3種のオナガザル属(Cercopithecus spp.)を対象に、従来の直接行動観察法に加えて糞中DNAメタバーコーディングを用いて被食昆虫の重複を評価した。行動観察および糞採集は2016年8月~9月、2017年7月~9月におこなった。計217の糞サンプルからDNAを抽出し、ユニバーサルプライマーで昆虫mtDNAのCOI領域を増幅し、MiSeqで配列を読み取った。類似度が97%以上の配列どうしをクラスタリングして操作的分類群(OTU)とし、Claidentを用いて各OTUの分類群を推定した。
 行動観察の結果、昆虫食の際の樹高は種間で有意に異なったものの(Bonferroni検定; いずれもp < 0.001)、どの植物部位から昆虫を捕獲したかにおいては3種間で重複が大きかった。糞中DNA分析の結果、3種とも鱗翅目OTUを高頻度で捕食していた。各OTUの検出頻度から算出したニッチ重複のモリシタ指数は0.401~0.699となった。Jaccard指数を用いたPerMANOVAでは、OTU組成は3種で有意に異なったが(pseudoF = 3.42, p < 0.001)、その効果量は小さかった(ω2 = 0.025)。これらの結果は、3種の昆虫食において比較的大きなニッチ重複があったことを示唆している。調査期間の7月~9月は昆虫食にかける時間が長くなる時季で、観察中に種間の攻撃交渉が見られなかったことを考慮すると、鱗翅目昆虫のアベイラビリティが大きかったために種間競合がシビアでなかったと考えられる。今後は昆虫アベイラビリティの測定とともに、別の時季にもサンプリングをおこなっていく。


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