| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-079 (Poster presentation)
環境変動やそれに対する生態系の応答は、一定の傾向がある長期的な変化(トレンド)や急速な変動であるイベントが様々な時間スケールで進行するが、その解明は困難である。本研究では、湖沼形成期からの堆積物とその内に残存する枝角類の遺骸を用い、湖沼環境と枝角類群集の変動を再現することで、長期環境変動と生態系の応答におけるトレンドとイベントの解明に取り組んだ。これまでの研究で、人間活動による急速な富栄養化の進行や、それに伴う生態系の応答が解明されてきた。しかし、富栄養化は、人間活動の影響がなくとも、湖沼が形成されてから自然に進行する。この過程において、栄養塩濃度や生物生産量が長期トレンド的に上昇すると考えられているが、研究知見はほとんどなく、実際の進行過程や生態系の応答は未解明である。そこで、人間活動が活発化する前の富栄養化の進行過程と、これに対する生態系の応答の解明、その他に枝角類群集に影響を与えた要因の検討を行った。
深見池(長野県)において堆積物コアサンプルを5本採集した。各層において、枝角類、無脊椎捕食者フサカ幼虫の遺骸を計数した。また、栄養塩である全リン濃度、植物プランクトンの光合成色素(Chl.a)濃度を測定した。
深見池では、2回の急激な富栄養化が発生していた。人間活動の活発化に伴う富栄養化の進行が生じた1950年代からに加え、1850年からも大雨による影響と考えられる一時的な富栄養化が見られた。統計解析の結果、1回目の富栄養化により、枝角類群集の優占種が底生性種から浮遊性種へ置き換わったことが示された。これは、先行研究で明らかにされている人為的富栄養化への応答と同様であった。一方、2000年以降の枝角類群集の変動には捕食者の関与が考えられ、深見池における魚類放流の歴史はこれを支持した。以上の結果から、人間活動を介さずともイベント的な急激な富栄養化が進行し、人為的富栄養化と同様の影響があるとわかった。