| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-086  (Poster presentation)

富山県におけるヒゲナガカワトビケラの生息分布とその環境要因

*鈴木茂信, 横畑泰志(富山大学院・理工)

 水生昆虫のヒゲナガカワトビケラは、毛翅目ヒゲナガカワトビケラ科に属し、幼虫は河川に生息し、体長は約40mm、成虫の前翅長は40mm程度の大型のトビケラである。本種の生息状況に河川の物理的環境、水質、流域の植生、種間競合等どのような環境因子が作用しているのか、富山県内の16河川28地点で2016年秋と2017年春の2回採集を実施し、県内の過去の記録も参考として検討を行った。
 また、定点1ヶ所を設け、毎月の観察により本種の令期と羽化期の推定を試みたところ、富山県での本種幼虫の成虫への羽化は、6-7月と9-10月の年2回と推定された。
 目的変数を各地点の捕獲個体数とし、同時に捕獲された他の各種底生動物の個体数、河川上流部の植生、河川の物理化学的条件を説明変量に用い、それらの環境因子の影響を評価したところ、本種と他の底生動物の捕獲数の間では、ユスリカ科(p<0.001)、ウルマーシマトビケラHydropsyche orientalis (0.01≦p<0.05)、シロタニガワカゲロウEcdyonurus yoshidae (0.01≦p<0.05)とは有意な正の相関がみられ、どの種とも負の相関はみられなかった。採取地上流5㎞、河川両岸各1㎞の様々な植生の面積比との関係では、スギーヒノキーサワラ群落(実質的にはスギ植林地)の面積比とは負の相関がみられる一方で、水田面積比とは正の相関がみられた。これは、水田地集落からの生活雑排水が農業用排水路畔のヨシ等の窒素原となり、枯死したヨシ等の葉や根が新たな窒素原として本種などの造網性の水生昆虫の栄養源となっている(森、2004)ことを裏付ける。これらの環境因子をもとにステップワイズ重回帰分析で本種の捕獲個体数の予測式を作成したところ、ウルマーシマトビケラおよびシロタニガワカゲロウの捕獲個体数と水田面積比が説明変量として有効であった(r2=0.91)。


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