| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-093 (Poster presentation)
地下水流出がもたらす湧水河川は、非湧水河川と比べて流量や水温の変動が小さい特徴をもっている。このように非湧水河川とは異なった湧水河川の物理環境は、特異的なハビタットの形成を通して独特な生物相を生み出しているかもしれない。本研究では、湧水支川、非湧水支川、本川部の複数地点で生息地環境と底生動物相を比較することで、湧水支流の底生動物相の特異性や湧水支川の合流が本川へ与える影響を検討した。
北海道黒松内町を流れる朱太川水系の湧水支川1地点、非湧水支川1地点、本川3地点(それぞれの支川との合流点の下流部、いずれの支川との合流点よりも上流部)の計5地点を対象とし、2016年6・9月に底生動物と生息地環境の調査を行った。底生動物はサーバーネットを用いて各地点5回ずつ採集し、水深、流速、川幅、水温を記録するとともに河床土砂粒径、開空度、堆積デトリタス量も算定した。
湧水支川は他地点よりも流速が遅く、河床の細粒土砂や堆積デトリタスが多かった。底生動物の個体数密度も他地点よりも有意に高く、掘潜型・収集食者の貧毛綱やオオユキユスリカ属によって底生動物群集が特徴づけられていた。また、湧水環境を選好するイズミコエグリトビケラ属やエゾヨコエビも湧水支川でのみ確認できた。一方、本川ではいずれの地点も刈取食者や捕食者であるヒラタカゲロウ属、トゲマダラカゲロウ属などが優占しており、湧水支川の合流による影響は見られなかった。
以上のことから、流量変動が小さく流速が遅い湧水支川では、デトリタスに富む砂泥質な河床環境が卓越して掘潜型・収集食者の底生動物が高密度に生息することが判明した。一方、そのような特異な湧水支川の環境が合流後に本川へ与える影響は限定的であると推察された。したがって、湧水支川内に創出された特異的な生息地環境は支川・本川を含む河川ネットワークにおける生物多様性の維持に特に重要であると考えられる。