| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-098 (Poster presentation)
山岳生態系は環境の変化や撹乱に対して最も脆弱な生態系の一つであり、日本ではライチョウや高山植生の保全に関心が寄せられている。日本の山岳域の亜高山帯から高山帯に成立する鳥類群集には、日本とその周辺地域のみで繁殖をする種が多く含まれている。鳥類は種ごとに選好・忌避する環境が異なることが多く、各種の生態学的情報の把握や、各種の分布の理解が、こうした種の保全のための基礎情報として欠かせない。鳥類各種と環境の関係を明らかにするためには、短い水平距離で劇的な環境の変化が起こる山岳域で、垂直分布を調べる事が有用である。しかし現在まで、日本の山岳域に生息する鳥類各種の垂直分布を規定する要因について、研究が行われた例は非常に少ない。
そこで我々は、北アルプス南部に位置する乗鞍岳(標高3026m)を調査地として選び、鳥類各種について垂直分布を記述すると共に、垂直分布の上限を規定する要因として植生による影響を検討した。2016年5月から7月にかけて、山頂から東西南北4方位の登山道を選び、標高1500mから山頂までのセンサス調査を行った。その結果、従来から知られていた各種の垂直分布のパタン(垂直分布の種間差等)を再確認した。加えて、記録された51種中13種について分布上限を特定した。そのうち8種で分布の上限と植生の遷移帯が一致していた。鳥類群集全体でみると、種構成の大きな変化が森林限界ならびにハイマツから高山植生への植生遷移帯で起こっていた。これらのことから、乗鞍岳の鳥類では、森林の構造的な変化によって分布上限が規定されている種が多いと考えられた。