| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-101  (Poster presentation)

ヒグマの掘り返しが駆動する生態系改変-植食性昆虫,植物,土壌への影響-

*富田幹次, 日浦勉(北海道大学)

 クマ類は多様な食性を示し,生態系機能や他の生物に与える影響もそれに応じて変わる.そのため,彼らの食性の変化は,生態系や他の生物に対して新しい影響をおよぼすことが考えられる.発表者らは,北海道東部知床半島のカラマツ造林地で発生しているヒグマによるセミ幼虫の捕食(掘り返し)に注目した.当地域におけるヒグマのセミ食は2000年より記録されるようになったため,掘り返しは新しい生態系機能や生物間相互作用を生み出している可能性がある.本研究では,ヒグマの掘り返しが土壌環境と植食性昆虫に与える影響を明らかにすることを目的とした.
 まず,掘り返しが土壌環境に与える影響を調査した.その結果,掘り返し区では土壌の無機態窒素濃度と含水率が少なかった.土壌環境の変化は,植物の葉形質とそれを餌とする葉食性昆虫に影響することが知られている.そこで,掘り返しがカラマツの葉形質と葉食性昆虫の個体数に与える影響を調査した.葉食性昆虫は,カラマツ造林地で発生していたカラマツハラアカハバチ(以下ハバチ)を対象にした.その結果,掘り返し区ではハバチ幼虫の個体数が少なかった.しかし,カラマツの被食防御形質ではハバチ個体数の減少を説明できなかった.次に,掘り返し区(面積100m2)におけるセミの抜け殻数を調査したところ,捕食後にもかかわらず,非掘り返し区と比べて著しく多かった.土壌が柔らかくなると,セミ初齢幼虫の地下への定着率が上昇することが知られている.したがって,掘り返しによって土壌が柔らかくなり,餌であるセミの密度が増加する,というヒグマとセミの間には正のフィードバック関係がある可能性がある.
 本研究で得られたパターンは,ヒグマの食性の変化が,従来無関係であった植食性昆虫に影響するようになったことを示唆している.また,林床で発生する掘り返しが,樹上と地下の昆虫に影響する,という現象は地上地下相互作用の観点からみても興味深い.


日本生態学会