| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-109 (Poster presentation)
動物の窒素・炭素の安定同位体比は、食性や食物網構造、移動経路の推定に用いられてきた。魚類では、筋肉や骨、鰭といった組織に加え、体表粘液が新たな分析対象として注目されつつある。粘液は置換速度が速く短期的な同位体比の変化を追跡できる他、同じ対象魚から非侵襲的に反復採取でき、同位体比の時間変化や変動パターンを同一個体で確認できるためである。しかし、置換速度や濃縮係数は、種や分析組織によって異なることが知られており、粘液における置換速度は、粘液採取の有無や採取頻度に影響される可能性がある。
そこで、淡水魚のコイ(Cgeyprinus carpio)を用い、粘液採取の有無または採取頻度が置換速度に影響するのかを2つの飼育実験から検証し、コイが餌の同位体比を反映する過程で、成長と代謝回転がどの程度貢献するか定量した。1つ目の実験では、4日置きに粘液を拭う10個体と、12日置きに粘液を拭う10個体で、異なる粘液採取頻度での置換速度を比較した。2つ目の実験では、粘液を反復採取しない時の置換速度を求めるために、18個体のコイから 1週間に 1個体の間隔で粘液採取し、1回目の実験で得られた置換速度と比較した。また、直接的には算出が困難である代謝回転率をコイの体重変化から予測できるか検証した。
粘液採取頻度は置換速度に影響を与えなかったが、粘液採取することで置換速度を促進させる傾向があった。また、同位体比を反映する過程で、代謝回転率の貢献度は成長率の4.4 〜 8.8倍と高い結果となり、成長率と代謝回転率には正の相関関係がみられた。粘液採取によって置換速度を促進する結果となり、より速い同位体比の変化は、短期間の食性変化を推定することに有利になると言える。また、成長率から代謝回転率を推定できることも示唆され、今後、他魚種での成長率と代謝回転率の知見を増やすことで、野外データで得られた個体サイズや成長率から同位体比の変化を予測することができる可能性がある。