| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-161  (Poster presentation)

タンザニア・カタヴィ国立公園におけるキリンの休息時と仔育て時の環境選択

*齋藤美保, 伊谷原一(京都大学大学院)

 キリンGiraffa camelopardalisは生後一年でその半数が捕食される。成獣であっても座位での休息時には視界が狭まり、かつ立ち上がるために数秒を要するため、座位での休息時は立位での行動時より被食リスクが高まるだろう。そこで発表者は、被食リスクが高くなる子育て時と座位での休息時には、キリンはより安全な環境を利用するのではないかと考え、その利用環境を明らかにすることを目的として調査を行った。
 調査は2017年5月から11月にタンザニアのカタヴィ国立公園で行った。キリンの集団を追跡し、各個体の位置と行動をスキャンサンプリング法で10分毎に記録した。各個体の年齢は4クラス(Calf、Juvenile、Sub-adult、Adult)、生息環境は4グループ(高木が点在する草原(草原)、疎開林、川、飛行場及び道路)に分類した。
 Calfは全観察時間中の95%を疎開林で、残りを草原で過ごしていた。彼らは全観察時間の18%を休息に費やしていたが、草原では一度も休息せず疎開林でのみ休息が観察された。Calf以外の年齢クラスの個体に関しても、休息は疎開林で多く観察され、キリンが子育て時と休息時には疎開林をより頻繁に利用することが示唆された。
 キリンの子は日中、やぶなどに隠れて過ごすことが多く、他の生息環境よりもやぶが多く存在する疎開林は、隠れ場所として適していると考えられる。また、主な捕食者であるライオンは水辺に潜むことが多く、本調査地の草原は川に隣接している。それも一つの要因となり、キリンは子育て時と休息時に疎開林を利用しているのかもしれない。また、疎開林を利用することは被食リスクを低くするだけでなく、エネルギー消費の抑制にも大きな役割を担っていると考えられる。林の端に比べて林内部は温度が下がることが知られており、昼間の暑い時間帯を過ごす場所としても疎開林は適しているのだろう。これらのことからキリンにとって疎開林は、他の生息環境に比べて子育てや休息に適した環境だと考えられる。


日本生態学会