| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-162  (Poster presentation)

菌食性ナメクジのキノコ胞子散布力

*北林慶子, 都野展子(金沢大学)

日本の森林に生息するヤマナメクジは菌食性動物であり、野生のキノコ表面にはヤマナメクジの食痕が頻繁に観察される。ヨーロッパに生息するナメクジは種子を摂食し無傷で排泄することから(Türke et al. 2010)、ヤマナメクジも同様にキノコの胞子を破壊せずに排泄する可能性がある。また、ヤマナメクジの体長は約15cmと大型であるため、キノコの子実層を大量に摂食し、棲家とする樹上や倒木の下など菌類に適した環境に胞子を排泄する胞子散布者として機能している可能性がある。しかし、これまでヤマナメクジの生態については情報が少なく胞子散布能力については未知である。
本研究はヤマナメクジの胞子散布能力を明らかにするために、ヤマナメクジの排泄物の菌相解析、排泄された胞子の発芽実験、摂食した胞子の体内滞留時間の測定、およびヤマナメクジの移動力について調査を行った。排泄物の菌相解析について、野外で採集したヤマナメクジ5個体の排泄物をアンプリコン解析したところ、全752OTUを検出し、43.4%が担子菌門で木材腐朽菌と外生菌根菌が複数種含まれていた。4種の木材腐朽菌を用いた発芽実験では、全ての試験でコントロールよりも排泄物中の胞子が高い発芽率を示した。体内滞留時間の測定では13個体の絶食させたナメクジにキノコを与えた後、再び絶食させてから最長6日間目で9.7万個の胞子を排泄していた。最後にヤマナメクジの移動力を調べるために、1m間隔で倒木が点在する林床にヤマナメクジ(N=15)を5個体ずつ5時間放ち30分ごとに移動距離を測定した。その結果、移動距離は最短0.5m、最長10.3m、平均6.35m(±1.29)であった。また、うち8個体は倒木へ向かっていき平均2.13本に立ち寄る行動が観察された。これらのことから、ヤマナメクジは1個体で複数種のキノコの胞子を摂食しており、発芽能力を保持または高めた状態で排泄することと、倒木間を移動することから、木材腐朽菌に適した胞子散布者である可能性が示唆された。


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