| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-163 (Poster presentation)
性的二型の進化には性淘汰、特にメスをめぐるオス間競争が関わっていると考えられている。オス間競争には、メスの発見・確保を競うスクランブル型競争とオスどうしが直接闘争するコンテスト型競争がある。従来の研究は、コンテスト型競争で体サイズや武器形質の大きいオスが有利であるという観察・実験結果から性的二型の説明を試みてきた。しかし、スクランブル型競争も体サイズや感覚器官の性的二型の進化に影響を及ぼしうる。本研究ではテナガホンヤドカリにおけるアンテナの性的二型(オスの方が長い)を記載し、さらに、オスのアンテナの長さを実験的に操作して、その長さがスクランブル型競争、及びコンテスト型競争に与える効果を検証した。
スクランブル型競争を想定した実験では、アンテナの長さによってメスにたどりつくまでの時間は変化せず、アンテナの長いオスがスクランブル競争で有利であるとはいえなかった。ただし、体サイズの大きなオスはメスに早くたどりついた。コンテスト型競争を想定した実験でも、アンテナの長いオスが闘争で有利であるとはいえなかった。ただし、体サイズの大きなオスは闘争で有利であった。
本研究の結果は、本種のオスの長いアンテナがオス間競争における有利性と直接的に関係していることを支持しなかった。しかし、もしアンテナの長いオスがより多くのエサや貝殻、捕食者を探知するうえで有利なのであれば、そのオスは成長率や生存率を高くでき、体サイズを大きくして、オス間競争で有利になるだろう。アンテナの性的二型はこのような間接的な性淘汰によって進化してきたのかもしれない。多くの性的二型の研究は、肥大した武器形質や派手な装飾形質に集中しているが、感覚器官や摂餌器官など、それらの形質に関連する器官についても性的二型は存在しうる。そして、そこには間接的な性淘汰が働いているのかもしれない。