| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-166 (Poster presentation)
海棲爬虫類であるアカウミガメは、水温が下がると潜水時間が増加し、冬眠のような不活発な状態になることが知られてきた。これは、潜水時に体内に保有した酸素を消費する速さ(=代謝速度)が水温によって低下するからである。ウミガメ類は自身の代謝熱により、体温が水温よりも0.7-1.7℃ほど高いことがわかっている。北太平洋のアカウミガメ亜成体はこれまでの認識と異なり、水温が約10℃低下する冬季でも夏季とほとんど変わらない潜水時間を示し、活発に採餌目的と思われる潜水を行っていることが最近の研究で明らかになった。本研究では、北太平洋のアカウミガメ亜成体は水温変化の影響が小さく、かつ高い休止代謝速度を行動の基盤として持つことにより、冬季の活動性を保っているという仮説を立て、水温と代謝速度の関係を調べた。
三陸沿岸域の定置網で混獲されたアカウミガメ亜成体を用いて、15℃、20℃、25℃の実験水温下で休止代謝速度を測定した。次に、得られた休止代謝速度の値の妥当性を検証するために、代謝速度から体温と潜水時間を推定し、実測値と比較した。野生下での潜水時間は、人工衛星対応型電波発信機を用いて取得した。
計13個体で各水温における休止代謝速度と体温を、計13個体で野生下の経験水温とその時の潜水時間を測定した。北太平洋のアカウミガメ亜成体の休止代謝速度は、冬季に不活発になる地中海の個体群よりも水温25℃で1.4倍、15℃で5.7倍高かった。また、代謝速度の温度係数Q10は1.8であり、冬季に不活発になる地中海の個体群(Q10=5.4)よりも低い温度依存性を示した。代謝速度から推定した体温と実測した体温は一致し、全個体が自身の代謝速度に対応した時間内でほとんどの潜水(89.5%)を終えていた。したがって、北太平洋のアカウミガメ亜成体がもつ、温度の影響をあまり受けず、かつ高い休止代謝速度が、冬季の活動性を維持できる行動基盤のひとつであることが明らかになった。