| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-168 (Poster presentation)
自身が保護する卵を全て食べる「全卵食」は多くの魚類で知られ、コストに見合わない保護を放棄すると同時に卵を栄養源とし、繁殖をやり直す適応的な行動と考えられている。ロウソクギンポの雄は卵が孵化するまでの約1週間単独で保護するが、保護卵の数が少ないと保護の早期に全ての卵を食べて繁殖をやり直す。この早期全卵食は全卵食現象の典型的な特徴であり、早期に保護を放棄するほど保護コストを小さく抑えることができ、かつ、栄養価の高い発生初期の卵を摂取できると説明されてきた(保護コスト・栄養仮説)。しかし、演者らは本種の早期全卵食には別の理由があると考えた。本種雄は性ホルモンに制御された繁殖サイクルを持ち、求愛活性の高い求愛期と、求愛活性が低く主に保護を行う卵保護期を交互に繰り返す。求愛期に卵を獲得すると性ホルモンが低下し始め、約2日間で求愛できなくなり卵保護期に入る。雄が再び求愛を行うには卵の存在を消し、性ホルモンレベルを上昇させる必要がある。雄が早期に全卵食するのは、性ホルモンが下がりきってから全卵食すると、求愛可能なレベルまで戻りにくく、再配偶が遅れるためかもしれない(ホルモン仮説)。この仮説を検証するために、野外で人工巣に営巣した雄の保護卵の一部を除去して全卵食を誘発させる操作を行い、全卵食中の雄と求愛期である卵獲得直後の雄、卵保護期である保護4~5日目の雄の性ホルモンレベルを比較した。さらに、保護初期と後期の雄の卵を除去し、翌日の再配偶率を比較することで、異なる保護段階で全卵食が起こった場合の再配偶率の変化を検証した。その結果、全卵食中の雄は性ホルモンが下がりきってから全卵食していた。また、再配偶実験では保護初期と後期で再配偶率に差は無く、いずれも素早い再配偶が可能だった。よって、全卵食の早期化をもたらす要因は性ホルモンの挙動とは関係がないと考えられた。