| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-173 (Poster presentation)
雄の左右対称性のゆらぎ(FA)が雄の質を示す指標になり、雌はこれを基準として雄を選択するとされる。例えば体サイズや闘争形質のサイズといった雄の形質が交尾戦術に影響を与えることは報告されているが、雄の採用する交尾戦術にFAが及ぼす影響について研究された例はない。婚姻贈呈と強制交尾の二つの戦術があることが知られているヤマトシリアゲ(Panorpa japonica)では、FAが雄間闘争と性フェロモンの効果に影響するという報告がある。そこで本研究では、本種の雄の体サイズおよびFAと、交尾戦術の関係について調べた。観察の結果、1)婚姻贈呈・2)強制交尾・3)餌を摂食中の雌に接近して交尾(摂食中交尾)の3つの交尾パターンが確認された。供試したオス(N=40)のうち、婚姻贈呈を選択する雄と摂食中交尾を選択する雄の比率には有意差は確認されなかった。また、交尾が終了した後、異なる交尾戦術を使用して再交尾に至ったケースが確認された。これらのことから、本種の交尾戦術は状況によって可塑的に変化する条件依存戦術である可能性が考えられる。また摂食中交尾と婚姻贈呈による交尾では、交尾時間に有意差は無かった。このことから、雄が摂食中の雌に交尾を試みることによって、(少なくとも室内実験では)婚姻贈呈と同じ交尾成功の効果を得られる可能性が示された。体サイズやFAによって使用する交尾戦術に有意差は確認されなかったが、3パターンの交尾戦術を含めた場合には、FAと交尾時間に有意な正の相関関係があった。よって繁殖成功において不利である左右非対称な雄は、雌1個体との交尾時間を長くすることで繁殖成功を増加させ、一方、繁殖成功において有利な左右対称な雄は雌1個体との交尾時間を短くし、多くの雌と交尾する戦術を取るのかもしれない。