| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-174 (Poster presentation)
多くの生物が意思決定を行う際に、他者の行動やその結果を通じて獲得した情報(社会的情報)を利用している。中でも、同種の他個体からは自らの生存・繁殖に直接的に関わる重要な情報を得ることができる。しかしながら、資源獲得において他者を通じて得た情報へ依存するのはリスクを伴う。なぜなら、情報が他者の誤った意思決定を反映している可能性がある上、たとえそうでなくても同じ資源を利用することで競争が生じるからだ。それゆえ、社会的情報に対してどのような意思決定を行うかは他の情報、例えば資源から直接的に得られる情報によって変化させるほうがよいと考えられる。本研究では、資源情報が不足していると、社会的情報に対する行動が忌避から選好へ変化し、結果として資源共有が生じることを示した。アズキゾウムシはすでに産卵され、卵が付着しているアズキを避けて産卵することが知られている。実験には、アズキと同じ程度の曲率を持つが、無臭であるガラス玉を産卵資源として使用して、アズキゾウムシが資源から得られる情報を操作した。その結果、ガラス玉へ産卵する場合には卵が付着しているものを選好して産卵するという、アズキに産卵する場合とは正反対の行動が確認された。資源の情報が不十分なガラス玉は、野外環境ではメス成虫が産卵資源として利用可能かどうか査定するのに時間的コストがかかる状況、また幼虫が単独で生育できないような質の資源を意味していると考えられる。野外環境においてメスは豆の莢に産卵するため、そのような状況に置かれる可能性が高い。本研究の結果は、資源情報が不十分な場合には、他者の意思決定に従い資源共有に参加する利益がそのコストを上回ることを示唆しており、微小な脳しか持たない昆虫であっても、適応進化により学習を介さずに複数の情報を比較、統合して柔軟な意思決定ができることを示している。