| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-178 (Poster presentation)
群れで暮らす霊長類では、その年に生まれた個体に母親以外の個体が接触するinfant handling (以下IH)という行動が頻繁に観察される。IHは、母子とハンドラー双方が関わることで成立する行動である。しかし、これまではIHの研究では、ハンドラーの性質のみが検証され、母子関係の多様性が考慮されてこなかった。また、IH前の母親とハンドラーの交渉についても単独で検証され、機能との融合はなされていなかった。そこで本研究では、IHにはどのような機能があるのか、IHを受ける頻度は母子関係の違いによって決まるのか、ハンドラーと母親間でどのような交渉が見られるのか、という3点を明らかにし、ニホンザル野生群のIHにおけるパターンに影響を与える要因の解明を目指した。野外観察によって収集した3年間のデータを用いて分析を行った結果、ハンドラーは主に未経産のメスであり、アカンボウを丁寧に扱う割合が高かった。この結果は、IHにはハンドラーの子育て練習の機能があるという考えと一致した。また、母子関係に関しては、アカンボウに対して保護的な行動をすることの少ない母親のアカンボウほど、より高頻度でIHを受けていた。この結果は、母子関係の多様性が、IHのパターンに影響を与えることを示唆している。さらに、IH前にハンドラーから母親へ行われる毛づくろいの有無と量は、母親とハンドラーの順位差・血縁度、母子間距離に影響を受けていた。よって、ハンドラーは母親との関係性に応じて毛づくろいの有無や量を決定していると考えられた。本研究により、IHのパターンの決定にはIHに関わる全ての個体間関係が影響を与えており、今後はそれらを考慮した解析が必要であることが示された。