| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-182 (Poster presentation)
2016年8月、北海道に3つの台風が上陸し記録的な豪雨をもたらした。北海道釧路市では総降水量627.5mmを記録し、釧路湿原国立公園(以下、湿原)では河川水位の氾濫を防ぐために建設された堤防道路により水が堰き止められて冠水した。湿原にはエゾシカ(Cervus nippon yesoensis;以下、シカ)が高密度で生息しており、冠水中の行動変化が予想されるが研究事例はない。そこで、本研究では湿原内に生息するシカの増水時における行動変化を明確にすることを目的とした。
行動変化を把握するためにシカ11頭のGPSデータを使用した。データ期間は2016年8月1日から10月31日とし、測位間隔は3時間である。行動比較のため河川水位から「増水前」(2016年8月1日~8月16日)、「冠水中」(8月17日~9月30日)、「減水後」(10月1日~10月31日)の3つの期間を設けた。それぞれの期間において日ごとの合計移動距離(m)または平均標高値(m)と新釧路川水位(m)の相関及びカーネル密度推定による点密度(points / m2)を算出した。
河川水位と合計移動距離の間にはそれぞれの期間で相関関係がみられ、冠水中で最も相関が強くなった(スピアマンの順位相関係数 P<0.001 r=0.66)。さらに、河川水位の増加に合わせて移動距離を増加させる個体が確認された。また水位と平均標高値の相関は、冠水中のみ強い相関関係があった(P<0.001 r=0.68)。点密度は増水前と減水後では局所的に点密度が高かったが冠水中では堤防道路全体で高くなる傾向がみられ、最大点密度は721 points/m2になった。
湿原内の堤防道路は平均標高が7.28mであり湿原より標高が高いことから、湿原に生息するシカは台風による増水時には堤防道路を安全地帯として利用し、一時的に行動変化させていたことが示唆された。