| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-186  (Poster presentation)

テナガホンヤドカリのオス間闘争において負け方が次の闘争に与える影響

*寒竹悠子, 石原 (安田)千晶, 和田哲(北大院・水産)

動物の闘争行動やその勝敗は、過去の闘争における敗北経験の影響を受けて可塑的に変化する。これを敗者効果と呼ぶ。近年の敗者効果についての研究では、過去の闘争における敗北という「結果」の影響だけでなく、過去の闘争における負け方という「内容」の影響にも注目が集まっている。本研究では、テナガホンヤドカリPagurus middendorffiiを用いて、「誰に (過去に敗北したのと同じ相手か、違う相手か) どのように (過去の闘争における立場; 挑戦者かオーナーか、行動; 取っ組み合いの継続時間)」負けたかが、次の闘争における敗者効果の強さや様式に及ぼす影響を検証した。
本種のオスは繁殖期に交尾前ガード行動をとり、その間メスをめぐって他のオスと闘争する。実験では、最初に野外で採集した交尾前ガードペアを用いてオス間闘争 (事前闘争) を観察した。次に、事前闘争における敗者を観察対象個体として、以下の2条件のいずれかに該当する交尾前ガード行動中のオスと遭遇させた; (1) 事前闘争を経験していないオス、(2) 事前闘争で観察対象個体に勝利したオス。
2回の闘争で観察された行動と勝敗を解析した結果、観察対象個体の2回目のオス間闘争における取っ組み合いの発生頻度と勝率は、事前闘争よりも低下した (敗者効果)。また、(1) より (2) の方において、観察対象個体の2回目のオス間闘争における勝率が有意に低下しており、「誰に負けたか」が敗者効果の強さを変えていた。しかし、両群共に事前闘争での立場や取っ組み合いの継続時間は、観察対象個体の2回目の闘争に有意な影響を与えていなかった。同属のヨモギホンヤドカリにおける敗者効果では、「誰に負けたか」は影響しないが「どのように負けたか (取っ組み合いの継続時間)」は影響することがわかっている。敗者効果についての研究では、過去の闘争における負け方 (どの要因がどれほど闘争行動・勝敗に影響するか) を精査することが重要であろう。


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