| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-189 (Poster presentation)
ほとんどの動物が自発的に移動を行う。移動の速さや方向転換の行い方・頻度などといった移動パターンは、探索・逃避といった目的や歩行・遊泳といった移動手段によって様々である。野外での動物の移動パターンは探索している資源の分布など環境の影響も受けるが、外環境からの情報が乏しい場合などは個体が潜在的に持っている移動パターンにしたがって移動すると考えられている。
巻貝類は海産無脊椎動物の中で最も多様化したグループの一つであり、生息地や食性などの生態は非常に多様である。しかしながら、移動手段はほとんどの種で共通しており、比較的低速である匍匐を行う。そのため巻貝類では、移動手段の制限による移動パターンの共通性と生態の多様性に応じた移動パターン多様性が見られると考えられる。
本研究では、生態や系統と移動パターンの関係性を調べるために、岩礁潮間帯に生息する肉食性のイボニシや同じく岩礁潮間帯に生息し藻類食であるヒメクボガイ、干潟に生息する腐肉食性のムシロガイなど多様な生態の巻貝12種各10個体を対象に移動パターンのクラスター分析を行った。移動パターンは、室内実験にてそれぞれが一定の環境下で移動する様子を10秒ごとのタイムラプスで撮影し、動画をもとに速度や移動方向といった情報を算出することで求めた。その結果、移動パターンは種内でも個体によって変動はあるが、系統がごく近縁なもの同士は類似した移動パターンを持つ傾向にあることが分かった。近縁な種は生態や形態など多くの点で類似しているため移動パターンも類似していると考えられる。一方、生態・系統ともに全く違う種同士でも移動パターンに類似性が見られることもあった。巻貝類は匍匐という移動手段の制限によってとりうる移動パターンが限られるため、生態・系統が異なっても共通した移動パターンになりやすいと考えられる。