| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-190 (Poster presentation)
配偶ペアのオスとメスが交尾前後で互いの体の一部を食い合い、その後協力して子育てをする生物がいるのをご存知だろうか。日本産クチキゴキブリ属の一部の種において、配偶個体同士が互いの翅を食い合うという行動が報告されている。クチキゴキブリは食材性の亜社会性ゴキブリで、両親が子の保護を行う。配偶個体同士が食い合うことは両親が子を保護する生物では特に将来の育児の協力相手を傷つけ、適応的でないように思える。交尾の前後で一方の性がもう一方の性に食われる性的カニバリズムはクモ、カマキリなど様々な種で報告があるが、これらの例で考察されている「食う意義」では「両性が食い合う意義」を説明できない。さらにクチキゴキブリの翅は痕跡器官のような食われるためにある翅ではなく、飛翔可能な機能する翅である。したがって食われた個体はその後生涯を通じて飛ぶことはできない。翅の食い合い行動はこれらの観点から、適応度上昇に繋がると容易には説明できない現象であるといえる。昨年演者らは翅に処理を施していない個体同士で翅の食い合いを観察した。今回はその結果を踏まえ、翅を人為的に切断して翅の食い合い完了時とほぼ同じ翅の長さにした個体を翅のある無処理の個体とペアにし、ビデオカメラで成虫ペアの翅の食い合い行動を撮影した。その結果、翅を人為的に短くした個体であっても更に翅を食われること、翅のない相手に交尾を試みる個体もいること、翅のあるメスはないメスに比べて翅を食われる個体が多い傾向にあることなどが明らかになった。切断処理をした個体の翅の面積は、切断処理を行わなかった個体の食われた後の翅面積と差がなかった。それにも関わらず、一部の切断処理個体の翅はなお食われた。このことから翅の食い合いでは配偶相手の翅を決まった箇所まで食うというわけではないと示唆された。この他明らかになったことを踏まえ、翅の食い合いの意義について更なる考察を行う。