| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-193 (Poster presentation)
休息や睡眠は、生物の生存において不可欠である。しかし哺乳類の睡眠は未だ謎が多く、野生下の大型海棲哺乳類ではほとんど調べられていない。これまでの研究より、草食動物の睡眠時間は体が大きくなるにつれて短くなると言われている。一方、肉食動物では、草食動物のような有意な相関は見られない (Siegel 2005)。肉食動物は、体サイズが大きくなるに従い餌サイズも大きくなる。しかし草食動物は体サイズに関わらずカロリー含有量の少ない植物を食べる。そのため大型草食動物は、大きな体を維持するエネルギーを確保するために採餌により長い時間を費やし、休息時間を短くせざるを得ないと考えられる。本研究では地球上で最大級の動物であるザトウクジラ(約30t)の休息時間を計測し、彼らの休息時間を大型の陸生哺乳類と比較した。
採餌期のザトウクジラ32個体に速度と尾びれの動きを計測できる行動記録計を装着し、合計約405時間のデータを得た。その行動を休息(遊泳速度が0.2m/s以下で、尾びれの動きを止めて停止している状態が1分以上持続)、採餌(急加速を伴う潜水)、その他(移動等)の3種に分類した。装着時間の平均60±31% s.d. (n = 32個体) が採餌行動、36±29% がその他の行動で、休息に費やした時間はわずか3±8%(1日換算:0.7±1.9時間)だった。1日以上の記録が得られた4個体でも休息時間は0〜1.7時間であった。これは肉食哺乳類の平均休息時間、12.2時間 (Zepelin & Rechtschaffen 1974)と比べ短く、野生のアフリカゾウ(約3t)の一日の平均休息時間2時間(Gravette et al. 2017)と同等の値である。これよりザトウクジラは肉食動物でありながら休息時間は陸棲大型草食動物と同程度に短いことが示された。ザトウクジラは体サイズが大きいにも関わらず、小型のオキアミや小魚を捕食している。また彼らは繁殖期に採餌しないと言われており、採餌期に集中してエネルギーを蓄える必要がある。採餌に多くの時間を費やすため休息時間が短くなったと考えられる。