| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-201  (Poster presentation)

オスの貯食行動は性選択によって進化した?―モズは「はやにえ」を食べてメスの誘引に重要なさえずりの質を高める―

*西田有佑(大阪市大・院・理), 高木昌興(北大・院・理)

鳥類や哺乳類,節足動物では,冬などの餌資源が不足する時期に備えて,なわばり内に餌を貯える「貯食行動」がよくみられる.この行動は餌資源量による自然選択によって進化したという説が現在主流である.しかし,多くの種で,貯食行動の特徴(餌を貯える場所や季節,量など)に性差があることが知られており,性選択は貯食行動の進化に関係している可能性がある.いくつかの条件が揃うと,貯食行動は性選択による進化が可能となる(以下ではオスの貯食行動に焦点をあてる).その条件とは(1)メスを誘引するための二次性徴をオスがもつ,(2)その二次性徴はオスの栄養状態に依存して発現する,(3)オスは貯えた餌資源を消費することで自身の栄養状態ならびに二次性徴の質を高められる,(4)その結果メスに好まれやすくなる,である.しかし,これまでこの「性選択仮説」を実証できた系はなかった.
モズは動物食の鳥類で,捕えた動物をなわばり内の木々の枝先などに突き刺して「はやにえ」を作る.私たちは先行研究で,オスは非繁殖期でのみはやにえを貯え,ほぼ全てのはやにえを繁殖期が始まるまでには食べ尽くすことを発見した.モズは性選択仮説を検証するのに適した材料だと考えられる.なぜなら,オスは繁殖期に入るとさえずるようになり,早口で歌うオスはメスに好まれ,その「早口さ」はオスの栄養状態に依存するからだ.よって,はやにえを多く消費したオスほど歌唱速度が速く,そのようなオスはメスを早く獲得すると予想し,野外観察と給餌実験をもとにこの予想を私たちは検証した.
観察と実験の両方で,オスのはやにえの消費量が歌唱速度と正に相関し,歌唱速度はオスのつがい形成の早さと負に相関することがわかった.よって,モズのオスははやにえを食べてメスの誘引で重要なさえずりの質を高めており,貯食行動の進化には性選択が寄与していることが実証された.


日本生態学会