| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-202  (Poster presentation)

擦り減らしながら生きていく: 金華山のニホンザルにおける歯の摩耗の年代変化

*若森参, 伊藤毅(京都大 霊長所)

歯の擦り減り(摩耗や欠損)は、食物の摂取の過程で生じるものである。金華山のニホンザルは、長年観察と骨格標本の採集が行われてきており、その歯の摩耗は大臼歯では象牙質が露出するほどすり減っている個体が多く見受けられ、欠損や亀裂も数多く見られた。これらの歯の擦り減りが、金華山のニホンザルで1999年秋から突然みられるようになった、オニグルミ食いと関係があるかを調査した。霊長類研究所には、1982年~2016年に採集された骨格標本が149個体寄贈されており、そのうち第三大臼歯が萌出中以上の年齢の92個体を対象とした。骨格標本を採集した年代で1998年まで(オニグルミ食い開始前)と1999年以降(オニグルミ食い開始後)に分け、小臼歯と大臼歯に見られる欠損および亀裂の有無や摩耗の程度を比較した。その結果、歯の欠損はオニグルミ食い開始の前後で顕著な差はみられなかった。雌雄でオニグルミ食いに差が見られることが示唆されたため、さらに雌雄別年代変化を調べたが、こちらも顕著な差はみられなかった。金華山のニホンザルの歯には、他地域の野生由来の標本と比較して、歯の縦方向に亀裂が入っている個体が多かった。これらの亀裂ができやすい要因(環境や食物)があり、何か固いものを咬むことがきっかけで歯が折れたり欠けたりしている可能性が考えられるが、この原因はオニグルミ食い以外に求める必要がある。


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