| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-065  (Poster presentation)

スゲ属植物における種子散布の適応意義:アリ散布型と重力散布型の種間比較

*原本すみれ, 徳田誠(佐賀大学)

種子散布は植物における最大の分布拡大手段であり、子孫を残すために最も重要なイベントの一つである。植物は重力や風などの非生物的要因の他、鳥や哺乳類、アリなどの他生物を利用して種子を散布する。動物を介した種子散布は、種子形質の多様化や生物間の共進化を考える上で興味深い。アリによる種子散布の適応的意義として、指向性散布仮説(発芽・定着に適した場所への散布)や空間的逃避仮説(親株付近の死亡率が高い環境からの逃避や親株周辺での子株間の競争の回避)が知られている。

本研究では、同属内にアリ散布型と重力散布型の散布様式を持つ種が含まれるカヤツリグサ科スゲ属に着目した。スゲ属のうち、アリ散布型の種の種子にはエライオソームと呼ばれるアリの好む付属体が付いている。アリは種子を巣に持ち帰ってエライオソームのみを消費し、種子本体は巣口周辺のゴミ捨て場などに廃棄する。これにより種子散布が成立する。一方、重力散布型の種の種子にはエライオソームが付いておらず、植物体の直下に落下する。本研究では、散布様式が未解明であった一部のスゲ属植物の散布様式を明らかにするとともに、分子系統解析により散布様式の進化過程を推察した。また、様々な種の種子を同一環境で栽培し、散布様式と発芽特性との関係を解析した。さらに、野外での密度調査や移植実験により、散布距離と生存率の関係を分析した。

一連の研究の結果、ケタガネソウなどの祖先的な種に比べ、派生的な種では発芽速度が遅くなり、種子生産数が増加する傾向が認められた。またアリ散布型の種は重力散布型の種に比べ発芽初期の死亡率が高く、競争に弱いことが示唆された。アリ散布型の中でも、祖先的な種と派生的な種ではアリ散布の適応意義が異なることが示唆され、祖先的な種では指向性散布仮説が当てはまるのに対し、派生的な種は空間的逃避仮説が当てはまる可能性が高いと考えられた。


日本生態学会