| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-077 (Poster presentation)
針葉樹は窒素(N)可給性が低い環境で優占することが知られている。これは、針葉樹が広葉樹に比べて、効率よくNを利用する形質を持つからだと推測できる。特に、樹体の大部分を占める木部へのN投資を下げることは、同じN量でより大きい樹高を達成することに繋がるため、N制限下の競争において重要な形質と考えられる。しかし、同所的に生育する針葉樹と広葉樹間で木部のN利用特性を比較した例は少ない。そこで、本研究では、N制限下の針広混交林を対象として、木部のN量と解剖特性に着目し、針葉樹と広葉樹の違いを検証した。
研究は、芦生研究林(京都府)の上谷の尾根(標高600m)に成立する成熟した針広混交林で行った。優占種であるスギとブナを対象種とし、DBH10㎝以上の様々なサイズの計12個体/種から、表層から髄付近までの材を採取した。材の深さ毎に材密度、全N、細胞壁画分N、水溶性画分Nを定量した。また、同個体から材切片を作成し、柔細胞量と細胞壁量を測定した。
その結果、体積当たりの全N量は、スギがブナよりも有意に低かった。体積当たりの全N量は、材密度と重量当たりの全N濃度(細胞壁+水溶性画分)の積で求められる。全N濃度の中で細胞壁画分が占める割合は大きく、スギの辺材では39%、心材では66%、ブナの辺材では54%、心材では84%だった。辺材・心材ともに、スギの細胞壁画分N濃度はブナよりも有意に低かった。また、材密度でも、スギ(0.38 g/㎤)がブナ(0.59 g/㎤)より有意に低かった。このことから、スギでは、ブナに比べて細胞壁画分N濃度と材密度が低いことで、体積当たりのN量が少ないと言える。この傾向は、個体サイズが大きいほど顕著になる。なぜなら、ブナの心材では細胞壁画分Nが占める割合が非常に大きく、肥大成長とともに心材の割合が増大するに従って、ブナはスギより多くのNを細胞壁に投資するようになるからである。
発表では、解剖特性のデータを合わせた考察も行う。