| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-087  (Poster presentation)

湿潤熱帯林樹木の吸水深度~根系形態と開花頻度との関係~

*勝浦柊(名古屋大学), 松尾奈緒子(三重大学), 中川弥智子(名古屋大学)

東南アジア低地熱帯多雨林では、1年~数年に一度という不規則な周期で起こる、群集レベルの同調した開花(一斉開花)が見られ、この現象は不規則に発生する短期間の乾燥によって引き起こされるという説が有力である。一斉開花への参加頻度には種間差があることが報告されているが、そのメカニズムはまだ明らかになっていない。乾燥時には土壌表層から乾燥が進行するため、土壌水分は土壌深層ほど多くなる。また、土壌表層と深層への異なる資源配分により、根の形態は種によって異なることが考えられる。これらのことから、主に表層に根を張る、乾燥を感知しやすい種で一斉開花の頻度が高くなるという仮説を立てた。そこで、本研究ではマレーシア・サラワク州に位置するランビルヒルズ国立公園内の低地混交フタバガキ林において、主要な15樹種を対象に、成木の吸水深度を推定し、上記仮説の検証を行った。吸水深度の推定は、強度の乾燥が起こったタイミングを捉え、導管水の酸素安定同位体比(δ18O)と土壌水のδ18O勾配を照合することによって行った。また、吸水深度を推定した種のうち、開花頻度の異なる4種の稚樹を対象として根系を手で掘り出し、各種の地際直径、樹高、総乾燥重量と乾燥根重量、根長といった根系形態と吸水深度とのアロメトリー関係を明らかにした。
仮説に反して、吸水深度が深い種ほど開花頻度が高いことが示唆された。また、稚樹における(主に主根の)根系形態には種間差が認められた。アロメトリー関係から、根長が長く、根バイオマス量が成木で大きくなると予測された種の順位と、乾燥期における吸水深度の深い種の順位とが一致していたことから、主根が深くまで伸び主根バイオマスが大きい種ほど吸水深度が深いことが推察された。


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