| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-098 (Poster presentation)
ブナは芽生えから成木まで約10億倍の重量幅で長期間成長し、個体の生理機能・構造は個体サイズに応じて一定傾向で変化する(スケーリング)。この間、最も死亡率が高い芽生えの個体生理特性がブナの適応度を左右する。本研究では、ブナの発芽後2年間の個体全体の葉、幹+枝、根の重量・表面積・呼吸を実測評価し、炭素・水資源獲得を担う個体地上部と根系で用いるエネルギー(呼吸)のスケーリングをブナ成木と比較した。これにより、実生期に特異的な成長・適応特性を個体生理学的な視点から明らかにすることを目的とした。
測定には発芽後2年間の実生55個体を用いた。この間の表面積の増加幅は、葉:10倍、幹+枝:23倍、根:392倍、個体全体:52倍と(重量では9、56、246、57倍)、根が最も急速に拡大し、発芽後2年目で根の表面積は個体全体の約82%(重量では74%)を占めた。さらに、葉、幹+枝の表面積当たりの呼吸が2年間を通じてほぼ一定であったのに対し、急激な成長をした根の表面積当たりの呼吸は驚いたことに約1/16まで大きく減少した。このコストを抑制した急速な根の表面積拡大は、芽生え期の乾燥枯死をメカニズムの一つであると考えられる。
以上のように、芽生えは【地上部は高コストで低成長、根系は低コストで高成長】と地上と根系で対照的な生理特性を示した。芽生えは光合成能力や水利用効率が低く、この時期の乾燥枯死は気孔閉鎖に伴う炭素欠乏が主要因であると議論されている。芽生えの根の急速拡大は、吸水を高めて乾燥枯死を防ぐだけでなく、活発な吸水が結果的に影響塩類を葉に集積させて、個体炭素獲得能を高める準備段階の芽生え期に不可欠な適応現象とも言えるであろう。現在、測定対象の個体サイズ幅を成木まで拡大しつつあり、芽生え~成木の成長に応じて急激に変化するブナの種特性の解明を、個体レベルの地上部と根系の構造と機能の実測モデルから進めている。