| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-162  (Poster presentation)

マングローブ域におけるカニ類の分布とセルロース分解能との関係

*川井田俊(東大院・農), 大土直哉(東大・大気海洋研), 渡邊良朗(東大・大気海洋研), 河野裕美(東海大・沖セ), 佐野光彦(東大院・農)

 マングローブ林とその周辺の干潟(以下,マングローブ域)には,多様なカニ類が生息することが知られている。マングローブ域のカニ類の多くは表層堆積物食者であり,主に底土表面の有機物を餌としている。この有機物の起源は主にマングローブなどの高等植物に由来するデトリタス(以下,植物デトリタス)であるが,これらは難分解性のセルロースを主成分とするため,カニ類が餌として直接利用することはほとんどないと言われてきた。しかし,近年の研究により,植物デトリタスが豊富に存在する温帯塩性湿地では,カニ類がセルロース分解酵素をもち,その活性(すなわち,分解能)が高いカニ類は植物デトリタスの多い場所に分布することが明らかとなった。これは,カニ類の分布パターンにセルロース分解能が影響を及ぼしていることを示唆しており,同様な現象はマングローブ域でもみられる可能性がある。そこで本研究では,沖縄県西表島のマングローブ域に存在する3つの微細生息場所(砂干潟,泥干潟,林内)において,カニ類の分布パターンを明らかにするとともに,各微細生息場所に出現する優占種の食性とセルロース分解能をそれぞれ炭素・窒素安定同位体比分析と還元糖比色定量法で調べ,分布パターンとの関係性を検討した。
 その結果,林内にはフタバカクガニが優占して分布し,砂干潟や泥干潟にはミナミコメツキガニやフタハオサガニが多いことがわかった。フタバカクガニは高いセルロース分解能をもち,植物デトリタスを主な餌としている種であったが,ミナミコメツキガニとフタハオサガニはセルロース分解能が低く,底生微細藻類などを食べる種であった。また,林内は砂干潟や泥干潟に比べて底生微細藻類が少なく,植物デトリタスが多い環境であった。このことから,セルロース分解能の違いに起因する食性の違いが,マングローブ域のカニ類の分布に影響を及ぼす要因の1つであることが明らかとなった。


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