| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-168 (Poster presentation)
魚類の分布は塩濃度や溶存酸素量等の非生物環境に強く影響を受ける。潮位や標高に応じて非生物環境が変化する河川の下流から沿岸域では、魚類の分布は複雑なパターンを示す。近年、動物に由来し、環境中に放出されたDNA(eDNA)をメタバーコーディングすることで、魚類相の検出が可能になりつつある。本研究では、目視調査による魚類相の詳細が報告されている沖縄島汀間川において、非生物環境を反映した魚類相をeDNAから検出できるか検討した。淡水である中流域から汽水域を経た河口までの約3 km区間に5地点(淡水2・汽水2・海水1)を設置し、採水とともに塩濃度、水温、溶存酸素量を計測した。採水は、各地点で6日間 × 3時点(朝、昼、夕)の合計18回実施した。フィルター濾過・抽出を経たDNAサンプルをMiFish U/EプライマーでPCR増幅後MiSeqで配列決定し、Mifish pipelineおよびFishBaseを用いた解析パイプラインで分類群を割り当てた結果、40科66属92種が同定された。各地点について調査日ごとに朝昼夕の3時点をプールした6日分の在不在データを非計量多次元尺度法 (NMDS)で評価したところ、魚類相は地点間で類似しない一方、NMDSの第一軸が塩濃度、第二軸が溶存酸素量の勾配とそれぞれ相関した。つまり、eDNA分析によって、1 km未満の狭い空間スケールでも河川の塩濃度や溶存酸素量などの非生物環境に応じた魚類相の違いを検出できることが示された。また、調査努力量を考慮した累積曲線 (Hill numbers)で種多様性を推定すると、多様性の低い淡水地点は6回程度の調査努力で推定種数が飽和する一方、多様性の高い汽水・海水域は12回の調査でも推定種数が飽和しない可能性が示唆された。このことから多様性が高いと予想される水域での網羅的調査では、より多い調査努力量が必要と推察された。