| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-184 (Poster presentation)
タンチョウGrus japonensisは日本の北海道およびユーラシア大陸の北東アジアに分布し、野生個体数は約3,000羽とされている。日本の個体群は、狩猟や開発による生息地の破壊により1900年代初頭に絶滅の危機に瀕したが、冬期間の給餌等による保護活動が実り、2015年2月には1,500羽(タンチョウ保護研究グループによる調査)を超えるまで個体数が増加した。しかし、個体数の増加にともない、営巣地の過密化や営巣適地の減少による繁殖への悪影響が懸念されている。タンチョウの繁殖様式は、一夫一妻制で、繁殖期にはテリトリーを形成する。また、地上営巣性で、一腹卵数は2個である。抱卵は雌雄が交代して行い、一か月ほどで卵が孵る。雛は早成性で、孵化後一週間以内に巣から離れ、親鳥の後を付いて歩くようになる。雛はおおよそ100日齢で飛翔可能となり、翌年の繁殖期まで親鳥と一緒に生活する。
大陸個体群の韓国にある越冬地で、1羽または2羽の幼鳥を連れた家族の内、幼鳥2羽連れ家族は3割以上を占めることがある。一方、北海道個体群のそれは15%程度で、大きな差異が認められる。しかし、産卵から翌年の越冬期までに、この差異がどのように発生するかは不明である。
本発表では、上述の差異の要因解明を目指し、まずは、孵化後1か月半ないし2か月程度の成長段階から翌年の越冬期まで、北海道個体群における1羽と2羽の雛の生存率を調べた。上記の成長段階において個体識別のために標識を装着された個体情報に基づき、一般化線形モデルを用いた解析を行った。ここで、孵化翌年の越冬期以降に確認された個体は生存とし、それ以外は死亡とみなした。結果として、1羽と2羽の雛の生存率に有意な差はみられなかった。したがって、孵化後1.5-2か月ほどから翌年の越冬期までの間で、北海道の雛2羽連れ家族の生存に対する特異的な影響はないことが示唆された。