| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-189  (Poster presentation)

森のネズミと共生するオオヤドリカニムシの生活史

*岡部貴美子, 島田卓哉, 牧野俊一(森林総研)

カニムシは捕食性の小型節足動物で、その多くは森林のリター層や樹皮下に生息する。ヤドリカニムシ科Megachernes属は体長が5mm程度に達する大型種のグループで、通常小型哺乳類の巣や体毛から採集される。日本産のオオヤドリカニムシ(M. ryugadensis)は洞窟で発見されたが、生活史には不明の点が多い。
本研究では、主に岩手県滝沢市の岩手大学演習林で2年間にわたり、アカネズミ(Apodemus speciosus)、ヒメネズミ(A. argenteus)に便乗するオオヤドリカニムシを採集し、室内飼育によって生活史の概要を明らかにした。オオヤドリカニムシは卵、第一~三若虫期、成虫の生活環を持つが、野外で第三若虫と成虫の便乗を確認した。採集したネズミへの平均便乗率は、1年目18.0%、2年目12.4%だった。便乗メス成虫はしばしば育嚢を有していたが、卵はメスの体外に出てから3週間程度で孵化することがわかった。一腹の卵の孵化は開始から約8時間で完了し、高い同調性が認められた。メス成虫は孵化に合わせて吐糸しシェルターを作ることがあるが、出て行った仔を捕食することもあった。第一若虫は、孵化後4~8週間でまゆを作って脱皮した。第二若虫は約6か月生き延びたものの、実験環境下で第三若虫になることはなかった。野外で採集された第三若虫は、数週間~1年後に成虫となった。採集された成虫は、実験環境下で1年以上生き延びるものがあり、卵から成虫までに1年以上、死亡までに数年を経過することもあると考えられた。飼育個体にはコナダニを餌として供試したが、第三若虫と成虫は、すべてのステージのチマダニを捕食することも確認した。これらのことから、オオヤドリカニムシは単独性の捕食者でアカネズミやヒメネズミなどの巣の中にすみ、寄生ダニやその他の小型節足動物を捕食し、これらの制御に寄与している可能性が示唆された。


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