| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-198  (Poster presentation)

ナラ枯れ被害地の腐朽木を生息場所とするキノコバエ類

*末吉昌宏(森林総研九州)

森林内の樹木の枯死は腐食・菌食昆虫やそれらを餌とする捕食性昆虫の生息場所を供給する。林床に散在する腐朽木の下面はキノコバエ類の幼虫の生息場所となっている。キノコバエ類の幼虫はきのこ・かび類を食べる菌食者のほか、他の昆虫の捕食者や腐朽木の分解者などを含む。いくつかの種の幼虫は食用きのこ類の害虫であったり、発光生物であったり、成虫が種子植物の花粉を媒介するなど、具体的な生態系サービスに関与する。しかし、これらキノコバエ類の生活史や生態系機能は国内ではほとんど解明されておらず、情報も散逸している。ナラ枯れは同時・継続的に枯死木が発生する現象であり、被害地では幹、枝、樹皮などの腐朽木片が大量に林床に散乱する。本研究ではキノコバエ類の幼生期の生息場所に関する情報を集約し、それらを参考に、ナラ枯れ被害地や老齢天然林の林床に散乱する腐朽木片表面を生息場所とするキノコバエ類相を調査した。ナラ枯れ被害地である春日山(奈良県奈良市)と猿投山(愛知県豊田市)、および照葉樹原生林の立花山(福岡県福岡市)など国内各地の老齢天然林の調査地に2~4kmのトランセクトを設けて、捕虫網による成虫の捕獲と落枝上の幼虫の探索を行った。2015年と2016年の10月からおよび2017年5月から同年10月までの間、月1回トランセクト上のコナラなどの枯れ枝などを拾い、表面に見られた幼虫・蛹を採集し、室温条件下で成虫を羽化させた。その結果、期間内に12種のキノコバエ類の幼虫とそれらの成虫を得た。腐食者としてチャボキノコバエ属、Monoclona silvatica、ナガマドキノコバエ類などが、捕食者としてミツボシヒラタキノコバエやツマジロノコキノコバエなどが捕獲された。腐朽木の樹皮の有無や土壌との距離などによって生息するキノコバエ類の種構成は異なっており、これらの昆虫の種数や生態系機能の多様性を保全するために必要な要素を定性的に捉えることができた。


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